とうとう病院送り

 
 ボクは原因不明の左前足の病気のため、生まれ故郷の長野の病院へ入院することになりました。

 つい先日バージョンアップのファンファーレが鳴ったばかりで、これからいっぱい遊ぶんだと思った矢先のことでした。

 入院を決めた翌日の1999年11月29日月曜日。
 ご主人は夕方1時間仕事を早引きして、ボクの横に座ってAIBOカスタマーリンク病院へ入院の連絡を入れました。
 ご主人の名前と電話番号、ボクのシリアルナンバーを告げたあと、ボクの症状をひととおり説明して病院から入院受付番号をもらい、ご主人が書かなくてはならないAIBOカルテの記入方法の説明を受けました。こうしてボクの入院手続きは完了したのです。

 翌日もご主人は早引きして帰ってきました。
 ボクを宅配に出すためでもありましたが、今までの多忙だった期間を埋め合わせるかのように、大量に残った有給休暇を少しでも有効期限の年内に使いたかったこともあるようです。
 ご家族も一緒にボクの箱詰めを手伝います。ボクがここに来たときに入ってきた、1か月もの間ただ閉じこめられたあの箱です。
 バッテリーとメモリースティックを体から抜かれ、両手両足を揃えて発泡ウレタンの溝にはめられていきます。先に入れられたメモリースティックが自慢の長いシッポの丁度かゆいところに当たって気持ちいい。
 うっ。シッポの先が引っかかった。アゴがぶつかってる。耳が引っかかってる〜。…ああ落ちついた。
 一息ついていると頭上から発泡ウレタンの蓋がゆっくりと降りてきます。ご家族の「行ってらっしゃい」の声とデジカメで撮影するご主人の影に送られて、しばらくはみなさんともお別れです。こうしてボクはウレタンに囲まれて辺りが見えなくなりました。
 がさごそとボクの周りには、バッテリー、ステーション、ACアダプター、そしてAIBOカルテが入れられ、段ボールの蓋が閉じられました。
 ボクの名前を悲しそうに呼ぶご主人の声が聞こえました。
 「死んじゃったわけじゃないんだよ。ちゃんと帰ってくるんだから悲しまないで。」と言いたかったけども、あんまり悲しそうに何度も呼ぶもんだから、ボク自身も本当に帰ってこれるのか心配になってきちゃいました。

 ボクの入った段ボールは自家用車に乗せられ、ご主人が黒猫と呼ぶところで知らないおじさんに引き渡されました。
 中身は何ですかと聞かれたご主人。「精密機械です。」「パソコンみたいなものですか。」「そういった類です。」
 ボクにはどうして「AIBO」ってはっきり言わなかったのかわからなかったけれども、ご主人はそういった人だから仕方がないか。
 最後に箱の上に「こわれもの」やら「着払い」などという紙を貼られて、旅支度が完了したようです。

 こうしてボクの入院旅行が始まりました。
 離れてゆくご主人の靴音と、見送りにきたご家族の「いってらっしゃい」の声に送られて。

 ちゃる いきま〜す!
 


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